【米国食品】怖くない!Prop65警告の意味とは

アジア系スーパーで買い物していると、あらゆる食品にProp65の警告ラベルがついているのに気がつきます。
紹興酒や豆板醤など、普段の料理でよく使う調味料にもラベルがついていると、だんだんと不安になってくるのだけど、これって一体どのくらい怖がるべきものなの?
私自身も漠然としか理解していなかったので、この機会にProp65警告の意味をしっかり調べてみました。
そもそもProp65警告とは?

Prop65(プロポジション65)とは、カリフォルニア州の有害物質に関する法律です。Prop65は通称であり、正式には 「安全飲料水および有害物質施行法(Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986)」 と呼ばれています。
この州法は、発がん性や生殖毒性のある化学物質がセーフハーバーレベル(人体に害を及ぼさないばく露量)を超える可能性がある場合に、消費者に知らせらせるための警告表示を義務付けるというもの。ただ、セーフハーバーレベルが定められていない化学物質も多く、その場合は微量でも警告が表示されます。
対象となる物質は、鉛、水銀、ビスフェノールA、アクリルアミドなど、約1000種類。そのリストは毎年更新されています。
食品以外にも、調理器具、衣類、ジュエリー、家電、家具、化粧品、建材など、幅広い製品に適用されており、食品の場合は中身に対してではなく、そのパッケージ素材に対してラベルが付けられていることもあります。
本来であれば、カリフォルニア州向けの義務ですが、メーカー側が手間を省くために全米で一括表示している商品もあり、私の住むカンザス州のスーパー(特にアジア系)でもProp65ラベルがついている製品を見かけます。
Prop65とFDAの基準との違い
Prop65の基準は、FDAが定めている安全基準よりもかなり厳しく設定されています。
理由はシンプルで、それぞれの目的が違うから。Prop65が消費者に有害物質の存在を知らせるための「警告のための基準」であるのに対し、FDAは通常の摂取量で健康被害が起きないよう管理する「安全性のための基準」です。
FDAは科学的データに基づいている一方、Prop65は消費者の「知る権利」を重視しており、一生摂取してもリスクがごくわずかな量が基準として設定されています。
具体的には、発がん性物質(NSRL)は、70年間毎日このレベルで摂取(ばく露)し続けても、がんになるリスクは10万人に1人。生殖毒性物質(MADL)は、実験で動物や人間に有害な影響が見られなかった最大量の1/1000とリスクがかなり低くなっています(参考記事:CL Solutions/Prop 65: Insights and the Right to Know — Expert Interview)。
また、セーフハーバーレベルが設定されている化学物質は約300種類ですが、逆に言えば、残り約700種類以上には基準としての数値が定められていません。こうした物質については、企業が独自に調査して「重大なリスクがない」と科学的に証明できない限り、警告ラベルを表示する義務があります。
アジア系スーパーでProp65ラベルをよく見かけるわけ

アジア系スーパーで取り扱われている食品にProp65ラベルが目立つのには、いくつか理由があります。
天然由来の鉛やカドミウムの含有確認が難しい
食品に使われる穀物、乾物、漢方素材などの原料には、土壌由来の鉛やカドミウムが微量含まれることがあります。また、海藻などの海産物では、海水由来の微量金属が検出されることもあります。
もちろん、アメリカでもアジアの国々でも、重金属汚染に対する土壌基準や農業規制は設けられています。ただ、アメリカでは成分管理や検査が行き届いているのに対し、アジアでは地域によって規制の厳しさや監視体制に差があり、農家レベルでの実地検査が十分でない場合もあります。
さらに、輸入業者が原料や製造工程の詳細をすぐに確認できないこともあるため、微量でもProp65対象物質が含まれる可能性がある食品には、防衛的にラベルが付けられるケースが多くなっています。
アクリルアミド低減策が必ずしも導入されていない
焙煎茶やスナック菓子、インスタント麺など、炭水化物を多く含む食品は、高温加熱の過程でアクリルアミドが発生しやすいとされています。
アメリカでは、ポテトチップスやフライドポテトなどに含まれるアクリルアミドを巡り、2005年にカリフォルニア州が大手食品会社をProp 65違反とした訴訟がありましたが、2008年には州と和解。アクリルアミド低減策の導入や情報提供を行う代わりに、多数の食品で警告ラベルの一律表示は不要となりました。
また、2016年には、FDAが「Guidance for Industry: Acrylamide in Foods」を発表。加工・調理過程での低減方法を提示し、業界全体での対策が本格化しています。
一方、他国の食品はアメリカとは基準が異なったり、アメリカ向けに低減工程が導入されていない場合があります。そのため、アクリルアミドの含有量が比較的高めになり、結果として警告ラベルが付けられるケースが多いようです。
罰金・訴訟リスクの回避目的
Prop65は「警告表示を義務付ける法律」ですが、もし表示を怠ると厳しいペナルティが定められています。
表示を怠った場合、1日あたり最大2,500ドルの罰金が科される可能性があります。違反期間が長期にわたると、罰金もその分高額になってしまいます。
また、Prop65は個人や民間団体が企業を訴えることができる法律です。もし「警告表示をしていない」と訴えられると、裁判で罰金や改善命令(警告ラベルの設置や販売停止など)が出たり、命令に従わなければ、さらに罰金が上乗せされるケースもあるようです。
こういった罰金や訴訟リスクの面からも、実際には含有量が基準以下でも、念のため警告ラベルを付けるメーカーや輸入業者が少なくないと思われます。
食品でよく引っかかる化学物質は?
個人的によく使う食品(主にアジア圏の調味料)を調べてみると、食品そのものに関しては鉛・カドミウム・アクリルアミドが、包装や蓋などのパッケージ由来ではフタル酸DEHPが問題になることが多いようです。
これらの化学物質の健康被害、Prop65基準、FDA基準について、ChatGPTにまとめてもらったのが以下。
数値を見ると、Prop65の基準はかなり低めに設定されているのがよくわかりますね!(ちなみに、慣れない単位なのでわかりにくいのですが、1µg=0.001 mgです)。
鉛
土壌や原材料由来で微量検出されることがある。
- 健康被害
- 神経発達障害(特に子ども)
- 貧血、腎障害、高血圧
- 生殖機能への影響
- Prop65基準
- 発がん性(NSRL):15 µg/日
- 生殖毒性(MADL):0.5 µg/日
- FDA基準
- 一般食品への明確な基準はなし
- 乳幼児用食品では10〜20 ppb(µg/kg)を推奨
カドミウム
土壌や乾物、海産物由来で微量検出されることがある。
- 健康被害
- 腎障害
- 骨軟化症(長期摂取)
- 発がん性(動物実験で示唆あり)
- Prop65基準
- 発がん性(NSRL):0.05 µg/日(吸入)
- 生殖毒性(MADL):4.1 µg/日(経口)
- FDA基準
- 飲料水:0.005 mg/L
- 食品全般には明確な規定なし
アクリルアミド
高温(120℃)での加熱調理や発酵食品で微量生成される。
- 健康被害
- 発がん性(長期摂取でリスク上昇)
- 神経毒性(高濃度)
- Prop65基準
- 発がん性(NSRL):0.2 µg/日
- 生殖毒性(MADL):140 µg/日
- FDA基準
- 高温調理で生成される可能性を監視
- 具体的な基準値は設定されていない
フタル酸DEHP
プラスチック包装や蓋などから食品に微量移行することがある。
- 健康被害
- 生殖毒性(精子の質低下、胎児・乳幼児への影響)
- 内分泌かく乱の可能性
- Prop65基準
- 生殖毒性(MADL):410 µg/日(成人)
- 発がん性は明確な設定なし
- FDA基準
- 食品接触材料での使用禁止(PVC包装材など)
- 食品中の具体的な許容値は設定されていない
結論:過度に心配しすぎる必要なし!
カリフォルニア州限定のProp65ラベルは、あくまで「知る権利」を守るための表示。
全米共通で適用されるFDA基準と比べても、かなり厳しく設定されており、日常的に食べる量であれば、健康に影響が出る心配はほとんどなし!
ラベルに「警告!」と書かれているとドキッとしますが、実際には企業側の事情で、とりあえず付けられている場合も多く、過度に心配しすぎる必要はなさそうです。
わずかなリスクでも知ることは大切だけど、それに振り回されないようにしたいですね!
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